〜流れ寄る ヤシの実ひとつ
カヤックやサバニで、沖縄や奄美の島々を旅していると、砂浜によくココナツの実が流れ着いている。特に無人島の浜辺には大小さまざまな大きさのモノをよく見かける。
分厚い外皮を外すのは一苦労するが、中から出て来たココナツの実は、それぞれが小さなお猿さんの様な、かわいい愛嬌のある形相をしている。
それを持ち帰り、中のココナツ部分を取り除いて乾燥させたあと、いろんな器やスプーン、ヘラ、小物入れにと加工する楽しみがある。
カヤック旅の途中に、外皮が外れヒビの入った、いいカンジのココナツの実を拾った。そのヒビを活かして丁寧にナイフで刃を入れ、2つに割ってみた。
パカッと、うまくバランス良く割れたので、そのひとつを旅の間はお椀として使っていた。これがなかなかのモノで、無人島の旅にはモッテコイの器となり、以来10年ばかり、共に南の海を旅している。
上蓋にもなる、もうひとつの片割れには、小さな穴が1カ所開いており、その穴に小さなサンゴの小石を差し込んで茶こしに、またドリップ・ペーパーがきれた時などは、バンダナなどを被せてコーヒーサーバーとして活躍する。
ちよっとしたカケラなどは、スプーンやお玉に変身すると、島崎の藤村さんもビックリの、これまた愛嬌たっぷりのキッチン道具となり、カミさん同様一生つき合うハメになってしまうのだった。
この夏に ぜひ ひとつ!
風吹くなかの沢音 そして 鹿の啼き声
中伊豆の山奥・冷川渓流の沢沿いで、一晩ビバーク・キャンプを楽しんだ。
友が渓流釣りに専念して、私は1時間ばかりでタープを中心としたベース・キャンプを設営する。
釣りのプロと、タープ・キャンプのプロとのコラボレーションである。
ツリキチ・ノボルが沢を遡上し3~4時間渓流釣りに勤(いそ)しんでいる頃、カメキチ・タカシは薪を拾い、風と沢水の流れを読み取り場所を決めタープを張り、沢石で火床を組み、ケトルにお湯を沸かしながら、とりあえずの避難小屋として、小さなテントを組み立てる。
1~2時間、ベース・キャンプを設営しながら常に風の動きを観察する。川上から吹き下ろしていた風がしばらくしてタープ左からの横風と変った。空の低い雲はタープに対して右から左に流れている。蛇行する沢の風は、尾根に吹く風の強さによって右左と常に渦巻く様に舞っているのだ。ときおり下流の方からも吹き上げては来るが、その風力は弱く時間もほんの4~5分ばかり。
タープやテントを張るとき、まず枯れ葉が溜まっているところ、もしくは細かい砂が堆積しているところをベースにする。そこは風や沢水が舞う事はあっても、吹き抜ける強い風や、石ころを押し流す様な強い流れが少ない、比較的安定した場所である事を、枯れ葉と砂が教えてくれているのだ。
舞う風を考慮して、タープの左右を地面まで下ろし遮蔽(しゃへい)して、A型テントの形に組み変え、火床横のセンターの支え棒を取り外し、天井を低くする機能を組み込んだ。川上から吹き下りてくる風は、火の粉に強い60/40素材の火床用風防を兼ねた小さなタープで、メインタープの上部へと逃がすのである。
ベース・キャンプ設営が終わり、しばらくして沢沿いを散策する。幾つかの沢の流れ口や、自然の河川の美しい苔むす石庭に心奪われる。静かなプール(水たまり)の枯れ葉や小枝の溜まり場下には、川魚の稚魚たち30〜40匹が群れをなし生きづいていた。
クロッキー・ノートにペンを走らせ、その感動をスケッチで切り取る。沢色を筆で落とし始めたころ、川上から冷たい風が吹いて来た。
いつのまにか陽が尾根向こうに沈み、沢全体が一気に冷えて来たのだ。
突然、後ろの方で鹿が啼(な)いた。振り返ると、4~5匹の白いお尻があわてて沢の土手を駆け上がってゆく。
風がおさまった夕刻4時すぎ、ツリキチ・ノボルが忍者の様に音もなく、ベース・キャンプへと戻って来た。とりあえず暖かい飲みモノをいれ、焚き火に当たりながら身体を温める。
桜咲く3月とはいえ、川水は10℃とまだ冷たく、夜は吐く息さえも白くなる3月上旬の中伊豆・山奥の渓流である。なによりも焚き火の温もりがありがたい。
小さな焚き火を前に簡単な食事をとり、いくつかの暖かな飲み物を酌み交わし、今日の出来事、そしてささやかな喜びを笑いあい、明日の予定を話しあう。
夜9時頃、真っ暗な谷間から空を見上げれば、南の天空にオリオンとシリウスが輝き、沢の流れと重なる様に南から北へと流れる天の川の片隅に、スバルの群星が静かに流れていた。
11時過ぎ 川上から風が吹いてきた。電池が切れかかったツリキチ・ノボルとカメキチ・タカシは、それぞれの寝床に潜り込み、渓流の沢音を夢枕に、気絶するように眠りに就いたのだった。
闇の中 また遠くで、鹿が啼いた。
無人島で 流木アウトリガー
いつのまにか昇った陽に照らされた無人島の朝、7時すぎにやっとの想いで目が覚めた。
先々日の夜、那覇の自宅にてキャンプ用折りたたみテーブル兼まな板を改造し、完全徹夜作業でバウ・デッキのアウトリガー横棒を縛るためのベース板を作っていたので、昨晩・無人島初日の夜は、早々9時過ぎには気絶するように眠りに就いたのだった。なんと10時間も完全熟睡してしまったのである。
寝起きそうそう、Ligoリゴ・フルーツカクテルの空き缶で、バーナーを作り、火を熾してお湯を沸かし、のんびりとラム・ミルクティーを飲みながら、甘塩シャケの切り身3枚を焼いた。こうして薪の煙でいぶし焼きにしておくと、日陰の常温で2〜3日はクーラー無しでも日持ちするのである。
簡単な朝食のあと、タープ下の寝床へ横になり、アウトリガーの素材とデザインを漠然と構想しながら、遠く水平線のリーフ・エッジに立つ白波を眺めていた。
そこへ、島を一周歩いてビーチ・コーミングしてきたと、バッシーと奈穂チャンの二人がキャンプ・サイトに戻って来た。なんと、おみやげに「これアウトリガーにどうぞ」と、いいカンジに曲がった長さ1mほどの短め2〜3本と、4〜5mのメチャ長い真直ぐな1本の、白い流木4本をわざわざ拾ってきてくれたのだった。~おお神よ!~
それから午前中の2時間ばかり、二人はウエットスーツを着込んで泳いだりしながら無人島をのんびりと満喫していた。
そんな二人に、諸々のお礼にと、こっそりシャケの炊き込みご飯を用意し、お昼時のタイミングに合わせ、ごま塩とインスタントお味噌汁の定食セットをプレゼントした。
午後1時半過ぎ、バッシーと奈穂チャンの二人は、「あと1泊したい!」という後ろ髪を引かれる想いと共に、無人島を漕ぎ出し比嘉(ヒガ)の港へと帰っていった。
2時過ぎ、さっそく、明日のセーリング・カヤック無人島脱出にむけ、流木アウトリガー作りに取りかかる。
まずは、アウトリガー本体を探しに浜辺をうろつく。
タープから100mほどの砂上に、小さなアダンの幹のカケラが落ちていた。拾って取り上げようとしたらビクともしない。「エッ、もしかしてッ!」と直感的に砂を掘り下げ、引っこ抜いて驚いた!
長さ1.5m、太さがふくらはぎくらいのカパカパに乾いた、日本刀の様にいい感じに反って、アウトリガーにもってこいの理想の形である。 まさに、〜 汝(なんじ)求めよ、さらば与えられん! リーチ・一発・ジュンチャン・三色・イーペーコー・ドラドラ・ツモって11本の数え役満を上がった気分である。~おお神よ!感謝します。~
偶然とはいえ、良きことは重なるものである。なんと、バッシーがキャンプ・サイトを片付けた最後の最後に「これ使います?」と残してくれた平板と合わせると、ナンという理想的なアウトリガーでしょう!
デザイン的にも機能的にも、スンバラしい流木アウトリガーならぬ「流木アートリガー」の完成です。★★★ 〜 星3つ いただきましたぁ〜
いやいや、偶然とはいえ カンペキですぅ〜! 良きことは、良きことへと繋がってゆく見本のような、夢みたいな出来事でした。
~バッシーと奈穂チャンに、重ねて心からの感謝!~
はてさて、その実なる機能はいかに?
風まかせ漂流キャンプ〜その3 最終篇に 乞うご期待!
(つづく・敬称略)
無人島で ミニ・ラーメン
新艇「ヘロン」で3km沖合いの無人島を目指す。午後1時ジャストに組み立て始めたフォールディング・カヤックは、2回目とはいえ、まだまだセンターフレーム・テンションと4〜5番のリブ装着に手間取り、初回の組み立て時間を10分ほどオーバーして1時間30分もかけてしまった。
キャンプ道具を積み込み、比嘉(ヒガ)の港を漕ぎ出たのは3時を少し過ぎていた。
沖に出ると予報どおり、左舷10時北東方向から10m/sの風がふいている。風上から4〜5mピッチで押し寄せてくる高さ1.5mの波が、5〜6回に一度のタイミングで波頭が崩れ白波となってデッキを洗う。3km先に浮かぶ無人島との間は、白ウサギがバンバン跳ねていた。
目指すは正面に浮かぶ島の右端・進行方向1時の砂浜だが、左舷10時からの風と波を考慮して、舳先を11時方向・島の左端の岩場に当て「30〜40分の辛抱!」と心に決め、ガッツリ漕ぎ続けた。
10分ほど漕いだところで、確認のため後方・港の位置を確認する。ほとんど風下へ流される事なく直線的に進んでいるので、舳先を進行方向12時に向きを変え、島のど真ん中に当てた。それから20分ほど漕ぎ続けたところで波と風が少しおさまった。距離にして残り1km弱、舳先を2時方向の右岸に向けなおし、のんびりとマイペースで、白い大きな砂浜を目指した。
上陸予定の砂浜からチョイ右側の岩場に、港で合流し先にカヤックで出発していた「バッシー」こと石橋勝(いしばしまさる)とその美人妻、奈穂(なほ)チャンの二人が、キャンプサイトで火を熾し紫煙をたなびかせていた。
そんなこんなで島の砂浜に上陸したのは、日没2時間前の午後4時ごろになっていた。
とりあえず日没も押し迫っていたので、キャンプサイト・寝床の設営にかかる。いつもタープを張る倒木が半分以上も砂に埋もれ、砂量があがっていたので、今回は流木タープキャンプ・サイトから少し趣(おもむき)を変え、砂漠の民・ベドウィン風の砂上タープ・サイトを張ることにした。
もちろん、今回の目的「無人島・帰りは風まかせ」作戦のためセーリング・カヤック用に、漂流物をかき集めて流木アウトリガーを組み上げるための、造舟所としての機能も兼ねているのだった。
休む間もなく、支柱となる流木や少しの薪を拾い集め、タープを張り、砂をならして寝床をこしらえる。1時間ばかりで、ベドウィン風タープサイト造舟所のベースが組み上がったところで、バッシーがありがたいことに、ミニ・カップラーメン〜まろやかチキン味「元祖オキコ・ラーメン」を差し入れてくれた。
身体が冷えていたので、お湯を沸かしてなにか温かいモノを飲もうとしていたところへ抜群のタイミングであった。~おお神よ!~ すかさずカップに麺を入れ、パッケージの袋にはお湯を注いで4分と書いてあったが、とても待ちきれず、注いで待つこと2分半、フーフーいいながら、その優しさと温もりが、冷えた身体に染み渡り、暖かな想いが蘇ってきた。〜バッシーと奈穂チャンに心からの感謝!〜
新ためて、沖縄産ミニ・ラーメン~まろやかチキン味「元祖オキコ・ラーメン」( 合成保存料&着色料 未使用だよ!) のクイックリーな美味しさ〜を見直した。
西の大空を真っ赤な夕陽が染めたあと、無人島・第一幕目の少し肌寒い夜のおとずれが、静かに舞い降りて来るのだった。
(つづく・敬称略)