2017年5月21日日曜日

バックパッキング




 テントと小さなタープ、そして大中小の細引きを数本とコンパクトな十徳ナイフ(スイスアーミーナイフ)をひとつ。寒さに備えた重ね着用長袖シャツ長ズボン、そして替えの下着と靴下とウインドブレーカー兼レインウエアをワンセット。ホーローカップと小さなケトル、そして一人用のクッキング道具と食料を少し。ダウン・シュラフに小さめのエアーマットを丸め、地形マップとコンパスの諸々をザックにコンパクトに詰め込み、夜明けと共に我が家をひとり静かに出発し地図の目的地を目指す。
 朝陽に祝福されたきみは最終駅に降り立つまでの数時間、地図を眺めてはまだ見ぬ渓谷や大自然の雄大な景色に想いを馳せ、昨夜の旅のプランニングを意識の中で確認しながら、車窓に流れ去るいつもの見慣れた街遠くに輝く太陽を眺めることだろう。
 はじめてのバックパッキングなら標高1500~2000m級の中低山を目指すといい。清流添いの里山をぬけ細い山道の渓谷を通り、陽光降り注ぐミズナラ林の登山道を地図を片手にマイペースでその日の目的地・キャンプサイトへとたどり着く。そうそう、山道や登山道を歩く時には背丈とおなじ長さで親指の根元くらいの太さの木の枝か丈夫な竹の杖(つえ)を拾い、旅の終わりまでお共にするといい。凸凹のガレ場や河原を歩くのに杖として安定するし、キャンプの時にはタープの支柱や物干竿として、森林限界域においては細かくして小さな焚き火に。また時には身を守る防具にだってなるからして原野を歩く者は1本の棒切れをつねに担ぐのである。
 渓谷の河原の片隅でテントを設営し、夜の帳(とばり)が下りてくる頃にちいさな焚き火を熾し湯をわかす。温かい飲み物をとりながら簡単な夕飯をすませる。焚き火横に寝転び見上げると暗闇の谷間に星空が輝いていた。焚き火の炎をながめつつ燃えゆく熾き火の美しさに見入れば、遠くのフクロウの鳴き声を夢枕に、歩き疲れた疲労感が深い眠りへと誘ってくれる。
 小鳥のさえずり、そして渓谷のせせらぎの音に目覚め、ファスナーを開けテントの外へ出る。朝霧が覆っている河原に山の端から朝日が差し込んで水面がキラキラ輝いている。大あくびをしてからだ全体の筋肉を伸ばしながら、さぁ~て、今日はあの山の頂上を目指すぞ!

 そんなこんなで大自然の懐を旅する時には一人旅をおすすめする。
 なぜなら初めて見る渓谷や山岳の原野の中では、チョットした探検の喜びと冒険のスリルに満ちあふれているし、なにはともあれ一人旅には、マイペースという自分自身の時間軸で全ての事が進められ決断するという「自由な時」が存在しているのだ。
 衣・食・住の最低限の道具を背に担ぎ、自分の時間と自分の足で歩き、陽に照らされ、風に吹かれ、雨に打たれてもなお己の汗と筋肉の力で山の頂きに立ちつくし、その雄大な景色を体験すれば、人みなそれなりに生きる喜びを実感できるものだ。
 そんなたった一人のバックパッキングの旅を数日過ごしてみれば、帰りの電車の中には数日前のきみではなく、自由な時とともにほんの少し一人前に成長したきみが、車窓に流れるいつもの見慣れた街の遠くに、あの山の頂きで見つめた真っ赤に輝く夕陽を眺めることだろう。

真実は旅にあり  知る事のよろこび






0 件のコメント:

コメントを投稿