海を漕ぐ ~その4 「癒しの湯」と「満月風呂」
奄美・加計呂麻一周カヤック旅の途中、江仁屋離(エニヤバナレ)にて一人だけ時間切れとなり、近くの実久・集落へと戻り帰京することになった。
古仁屋(コニヤ)を漕ぎ出て3日目の朝、離脱する仲間を見送り、旅を続ける我ら16人は、次ぎなる楽園を目指し無人島・江仁屋離の白浜を後にした。
漕ぎ出して1時間過ぎた頃、チームリーダー大瀬がGPSの速度表示によると、引き潮に乗るはずの潮の流れが弱く、入り江脇の反流のせいか、思いのほか巡航速度が上がらないと言う。シーカヤック・シングル艇なら荷物満載でも、潮の流れにもよるが、普通に漕いで3ノット*(時速約5.5km)、潮に乗れば4~5ノット(時速約7.4~9.2km)で進むはずである。ちなみに、ダブル(二人)艇なら荷物満載の場合、同じ条件でシングル艇に比べ+0.5〜0.7ノット加速し、ピッチが揃うと平均で4ノット(時速約7.4km)で巡航できる。(*1ノット:時速 約1.85km/h 換算)
のんびりと漕いではいたが、山当てや岬のライン、左岸の岩のズレ具合を指針に、私はそれなりに速度を感じていた。しかしGPSの速度表示は想いもよらぬ時速3~4kmしか出ていないらしい。また先頭を漕ぐ大瀬から見て、後方舟列も先日までの漕ぎ具合に比べると、どうもタテ長に延びるようになってきたと言う。
シーカヤック・マラソンレース35kmを一気に完漕し、4~5日に及ぶ野宿を共に過ごしてきた、仲間たちの疲労度を感じとったリーダー大瀬の判断で、明日からの旅へのリセットということになり、急遽、西阿室(ニシアムロ)にある私の実家にて、一晩休息を取ることになった。
その夜、就寝前にみんなで、大潮4~5ノット激流を越えての無人島「ハミャ」へ渡る可能性を話し合った。その結果、残りの日程を考えて加計呂麻一周を優先することとなり、今回チーム全員での「ハミャ」へのアプローチは中止となった。各自の漕波力を知るリーダー大瀬の提案とその英断に、全員一致での合意となったのである。
明けて4日目の朝、西阿室を漕ぎ出す。1時間弱で5km進み風崎(カザキ)の岬に到達する。正面・与路島(ヨロジマ)と請島(ウケジマ)の間・沖合い3km先に無人島ハミャが見える。ここ風崎は加計呂麻で一番高い山・風崎岳(カザキダケ)がそのまま海へと切り立っていて、岬回りは強風吹き荒れ、潮がぶつかり大きな三角波の立つ難所のひとつである。にもかかわらず今回はラッキーなことに、さわやかな潮風そよぐ穏やかな海であった。
我々はここから、あこがれのハミャを横目に風崎を左に回り込み、請島を右舷に見ながら、14km先の諸鈍(ショドン)集落を目指すことになった。途中二度ばかり砂浜に上がって休憩をとり、お昼過ぎには諸鈍に到達する。各自それぞれ集落の食堂や売店にて昼飯をすませ、しばらくして1.5km手前の浜に戻ってキャンプすることになった。途中の小さな滝で水浴びをしたあと、最終キャンプ地の砂浜に午後3時ごろ上陸したのである。
みんなで舟を担ぎ上げ、テントやタープを張り終えたあと、いつものようにシュノーケリングや釣り、そして共同タープの日陰でのんびり昼寝と、皆それぞれに奄美の海辺を、マイペースで満喫するのだった。
砂浜の左側には、海に向かって小さな沢水が流れ出ていた。
パミール高原(たかはら)と初恵(はつえ)の二人が、沢を小石で堰止め、流れに水たまりをこしらえていた。途中から私とルミ子、そしてスコップを片手に松尾のシゲさんも加わり、みんなで仲間たちの汗を流すためにと「癒しの湯」を作りあげていった。
少しづつ流れ込む沢水は思いのほか冷たく、みんなでキャーキャー言いながら一人づつ水風呂「いやしの湯」に浸(つ)かってみた。その楽しさのあまり、仲間の誰かを捕まえては、半ば強制的にと誘い込み、風呂に浸からせるのである。
水の冷たさは、陽焼けに火照った身体にしみわたり、入水始めは全員「ウオォ~ッ」と身がちぢこまる。そこへ間髪入れず「はいはい、イタイのは最初だけ、すぐにキモチよぉ~くなりますよぉ」と支配人パミールの甘いささやきと同時に両肩を押さえ込まれ、数人から全身にチャプチャプと冷水をかけられる。「ウオォ~ウオォ~ッ」と雄叫びがあがったところで「イイ子おりまんがな、イイ子やでぇ~はい!イイ子たちサービスしてなぁ~」の支配人のかけ声と共に、初恵とルミ子が石けんと小石で、チクビをクリクリと限りなく優しく撫でるので、たまらず男ども全員「ウオォ~ウオォ~ッああぁ~~~」っと快感のあまり、そのまま昇天するのだった。
湯上がりトドメに、奄美特産・黒糖焼酎〜里の曙(さとのあけぼの)〜を、強引に巻貝の盃で飲まされ、「エ~ご入浴とお酒で、はい2万5千円いただきます。ご請求書はどちら様へ~?」と、番頭の私がお代を告げるシステムが、あっというまに確立したのである。
長風呂と大酒飲みは、最高4万8千円もボッタくられる始末となリ、当初の志(こころざし)高き「癒しの湯」は、気がつけば、濡れ手に粟(あわ)ウハウハ商売の「いや(ら)しの湯」に様変わりしていたのだった。
そんなこんなで、大騒ぎしていたら、対岸の空にたなびく雲間に真っ赤な夕陽が沈んでゆく。西の空が七色に輝いたあと、黄金のオレンジと茜色に染まり、紫色の夜の帳(とばり)が大パノラマの空一面に降りてきた。
夕食を済ませたあと、幾人かで焚き火を前に、この旅の出来事を笑い合った。私は先日の夜に1~2時間しか睡眠を取っていなかったので、眠気に誘われるままフラフラとタープへ戻り、そのまま気を失った。
みんなの騒ぐ声で気がつき起きてみると、沢の奥に毒蛇ハブがいたらしい。私は沢近くの砂利場に、タープの下でゴロ寝をしていたので、あわててモスキート・ネットを張り直し、底の上下左右を小石で塞ぐのだった。
それからというもの、なかなか寝付かれずウトウト居眠り状態が続いた。深夜にふと目が覚め浜を見たら、満月の光で砂浜が明るく照らされていた。ハブが気になりタープの回りをマグライトで見回り確認する。そして、あまりの明るさに浜辺に出て満月を見上げた。しばらくして風呂をのぞくと、なんと、満月がキモチ良さそうに、ひとり静かに入浴していた。
「癒しの湯」を「満月風呂」と名を改め、ハブにおびえながらモスキート・ネットに潜り込んだ。入り口を完全に小石で塞ぎ、そのまま気を失いつつ、ハミャのソリ滑りをひとり夢見ながら、静かに眠りに就くのであった。 〜(敬称略)
ああ「満月風呂」よ ふたたび。
ウクレレ漫談
返信削除~牧伸二の名調子で ♪
ア~ やんなちゃった
ア〜 おどろいた!
パミール 亀吉 温泉 掘って
ルミ子 初恵が チクビ 洗って
一杯 飲んだら 2万円
ア~ やんなちゃった
ア〜 おどろいた!
俺は~お前が~好きなんだ~
返信削除ほんとにほんとに好きだけど~♪
だけど~あ~し~た~はわからない~
だけど~あ~し~た~はわからない~♪
「癒しの湯」改め「満月風呂」は
波にゆっくりと流され、加計呂麻の土に還っていたのだ~
刹那的な満月風呂でしたね~
また、ボッタクリ風呂作りましょう!!