寒山人
バブル真っ只中の1980年代初頭、名著「アウトドアライフ入門」との出会いは、読書嫌いな私を、野宿と焚き火の世界へと導いてくれた。
その後の私の人生は、野宿と焚き火を中心に歩むこととなり、炎の中に自分をみつめ、身の回りに繰り返される「時代および時の流れ」そのものを見つめることに気付かされたのだった。
いつのまにか出版界に迷い込み、時代の流れるままに幾つかの雑誌・書籍の創刊・発行に関わることになった私は、毎月〆切前の編集やデザイン仕事に忙殺され、徹夜続きで自分を見失う直前の校了あと、私はひとり、ときに志を共にする仲間と出版社・編集部を抜け出し、2〜3日郊外の河原や渓流、海岸の浜辺へと脱走して、野宿と焚き火を繰り返すのだった。
迷路をさまよい、気がつけば、私は「アウトドアライフ入門」著者の田渕さんと本やカタログを作り、焚き火を前に、幾つかの時を共に過ごしていた。そして、薪ストーブの世界へと導かれたのだった。
時が過ぎ、去年の夏の終わり、薪ストーブ会社ファイヤーサイドの今年2020年のカレンダーを作るにあたり、やがて来る「別れ」のレクイエムとして田渕さんから学んだひとつ「ミズナラ」の命の営みと薪ストーブを愛する人々との関わりを、6枚の絵として描き残した。
とくに7〜8月のカレンダーには、彼の愛した夏の花、ルドベキア(スーザンの黒い瞳)を、部屋に置かれたバーモントキャステイングス社製・デファイアント・アンコールの、火の消えたストーブ・トップに花瓶を置きルドベキアをいっぱいに捧げた。
火の消えた薪ストーブ炉室には、田渕さんがこの場所を安住の地と決めた雨にけむる「岩根山」をミズナラの灰汁で描き残した。そしてストーブ左上には田渕さんの魂の化身、ウスバシロチョウ(ラテン学名:パルナシウス)を、感謝の涙を流しながら記したのだった。
あなたの魂よ 永遠なれ あなたのエールに 心からの感謝を。
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