安達太良山の初秋
ナナカマド
久しぶりに東北の山を散歩した。
高村光太郎の短編集「智恵子抄〜あどけない話」に
智恵子は東京に空が無いといふ。
わたしも そう想う。
智恵子抄〜あどけない話
智恵子は東京に空が無いといふ。
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間(あいだ)に在るのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に
毎日出ている青い空が
智恵子のほんとうの空だといふ。
あどけない空の話である。
で、記されている「ほんとうの空」を見ようと、
安達太良山(あだたらやま)に登った。
まだ9月下旬だというのに標高1500〜1700mにかけて、
小さな秋がはじまっていた。
秋の入口とはいえ、植物たちの鮮やかな色彩についつい足を止めてしまう。まぶたに焼き付いたナナカマドの赤い実の美しさを、記憶の褪(さ)めぬうちにと、たどり着いた山小屋にてコンパクト・カメラのモニター・メモを眺めながら、残像の断片をたどりつつスケッチをとる。
ナナカマドの実は果実酒に利用でき、疲労回復、強精、強壮、利尿作用の効果があるという。
なんと、その樹木は炭としての極上品・備長炭の材料として古くから慎重され、火持の良い強い火力は、七度、竃(かまど)に入れても燃え尽きないことから、ナナカマドと呼ばれているのだった。
(つづく)
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