備え と 祈り
単独でシーカヤック、もしくはサバニ旅で大海原に漕ぎ出るとき、常に胸元に下げているモノがある。ナイフとハマシタンの小枝とホイッスル、そしてヤコウガイのお守りの4品。
ナイフはGERBER・ガーバー LST/Blackのホールディング・ナイフ。440Cステンレス鋼に、グリップ部分はマイカルタ素材の優れモノ。モノマガジンの創刊時1982年からのおつきあいなので、かれこれ30年共に旅をしている。
ステンレス鋼の刃は塩水に錆びず、440C鋼材のため堅く、結構乱暴に扱かっていても刃こぼれがいっさい無い。もちろん旅の終りには、真水で塩を洗い流し天日で乾かし、CRC556のひと吹きを怠らない。
荒れた海でのシーカヤック沈脱リカバリー(再乗船)の際、舟底をくぐったパドル・リーシュ(船体とパドルをむすぶロープ)コードを切断するときや、セーリング機能に組み上げたロープの類いを緊急時に切断解除するために備えている。
荒れたリーフ内で、ひとりカヤック沈脱リカバリー・トレーニングしたとき、舟底をくぐって反対側に浮き出たパドルを反対側へ戻そうとしても返せず、ましてやセンターのストッパーを解除してコードを抜き取り再度パドルを繋ぐなど、荒波の中でそんな悠長なことはやってられないのである。
実際の荒れた海でのリカバリーはこうだ。
沈して反転したカヤックからスプレースカートをはずしコクピットを抜け出し、スターン(後方)に回り込んで荷物満載のカヤックを起こしカヤック後部を抱え込む。下半身平泳ぎの要領で波の来る方へカヤックの舳先をむけ、第一波をかわしたらすかさずカヤック後部にへばりつくように両手で自分の身体を船体に引き上げ、後部をまたぐようにしてカヤックと身体を密着させ安定させる。
視線は常に前方の波を見ながら寄せ来る第2波3波をやりすごす。後部にへばりつくとバウ(船首)が上がり、寄せ来る波頭を切り裂き横波を食らわないで再度転覆することがない。へばりついた状態で徐々に体をコクピットへと移動させ、パドルを手にとりコードが回り込んでいないか確認して、次ぎなる波のウネリをやりすごし、すかさずコクピット内へケツを落とし込む。両足を外に出したまま、パドルで常に波の来る方へとパドリングで舳先の向きをコントロールする。この時のパドルはフェザーリングよりもアンフェザーのフラットな左右同一の角度が寄せ来る波に対して対応しやすい。なぜなら片手で漕ぎながら、片手でシーソックスやビルジポンプを取り出したりと、色々なことをする作業は、クイックリーに左右の手でパドルを漕ぎながら持ち替えなければならないことになるからだ。
荒れた海では、パドルフロート使用の再乗船や船体横からのリカバリーなどかなり困難を要すると想う。横波を食らうとアッという間にまた転覆するし、足元がおぼつかない洋上において2〜3回のリカバリーで復起乗船できないと、体力的にも精神的にもかなり消耗してしまうのだから。
また、空荷で、しかもスペーサーを差し込んでガチガチフィット状態でやるエスキモーロールは、荷物満載の旅カヤックにおいては何の役にも立たない。ましてやホールディング・カヤックのガンネル両サイドにはエアー・スポンソン(空気チューブ)が設置されているためロールさせるのは至難の技である。
それでもエスキモーロールが得意だという人は20〜30kgのキャンプ道具と飲み水を満載した状態で、しかもユルユルなフィット感のまったく無いコクピットおさまり状態でロール・リカバリーの経験をしておくことだ、しかも4〜5秒ごとに波頭崩れる大波のウネリのただ中を想定して。
ハマシタン(浜紫檀)の小枝は、先端を少しとがらせてロープや細引きのかたく締まった結び目を解除するための挿物として、キャンプ暮らしのあらゆるシーンで活躍する。時に小さな「孫の手」となり、背中のど真ん中をカイカイしてくれる。
ブラス製のヨット用デッキコール・ホイッスルは、形と真鍮の素材の美しさからついつい手に入れたモノだが、海の上で鳴らしたことは一度も無い。おもいきり吹くとカン高い「ピィ〜ッ」と鋭い音がするので、時々、首相官邸前の反原発デモのなかでピッピ・ピッピ・ピィ〜〜ッと雄叫びをあげている。
そして、お守りとしてのヤコウガイ(夜光貝)のアクセサリー。これが1個加わるだけで、ナイフの物々しさが半減し、このセット全体が、アクセサリーにと変身する。と本人は想っている。もちろん、航海安全、心願成就、家内安全、開運招福、白發中、大三元は九連宝燈、四暗刻ツモの、お祈りも込められている。
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